卒FIT後の太陽光発電システム:自家消費最適化のための技術と経済的選択肢
近年の電気料金高騰は、多くのご家庭において大きな負担となっています。同時に、再生可能エネルギー、特に太陽光発電システムに対する関心が高まっています。既に太陽光発電システムを設置されている方の中には、固定価格買取制度(FIT制度)の期間満了(卒FIT)が近づいている、あるいは既に迎えている方もいらっしゃるかと存じます。
FIT制度が終了すると、売電価格は大幅に低下するのが一般的です。これにより、FIT期間中のように売電による収益を期待することが難しくなります。この状況は、電気代の節約という観点から、太陽光発電システムで発電した電力を「売る」から「使う」こと、すなわち自家消費へシフトすることの経済合理性を高めています。
本記事では、卒FIT後の太陽光発電システムを最大限に活用し、電気代を削減するための技術的な選択肢と、それぞれの経済的な側面について詳しく解説いたします。ご自身のシステムとライフスタイルに合わせた最適な活用方法を見つける一助となれば幸いです。
FIT制度終了がもたらす変化と自家消費へのシフト
FIT制度は、再生可能エネルギーの普及を目的として、一定期間、固定価格で電力会社が電力を買い取ることを保証する制度でした。この制度により、多くのご家庭が太陽光発電システムを導入し、余剰電力の売電収入を得てきました。
しかし、FIT期間が満了すると、電力の買取価格は各電力会社や新電力事業者が独自に設定する価格となります。この価格は、FIT期間中の買取価格(例えば48円/kWhや42円/kWhなど)と比較して大幅に低く(例えば7円~10円/kWh程度)、電力会社から購入する際の価格(買電単価、例えば30円~40円/kWh以上)よりも安価であることがほとんどです。
この状況下では、1kWhの電力を売電して得る収入よりも、同じ1kWhの電力を自家消費することで、電力会社から購入するはずだった電気代を節約する方が、経済的なメリットが大きくなります。これが、卒FIT後に自家消費へのシフトが推奨される最大の理由です。
卒FIT後の主な選択肢とその技術的・経済的側面
卒FITを迎えた太陽光発電システムの主な活用方法には、以下の選択肢が考えられます。
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余剰電力の売電を継続する:
- 技術: 基本的に既存システムをそのまま利用します。電力会社または新電力事業者との間で、新しい買取契約を締結します。
- 経済性: 買取価格は市場価格や事業者のプランによって変動しますが、多くの場合、非常に低い価格となります。売電収入による大きな経済的メリットは期待しにくいですが、何もしないよりはわずかな収入を得られます。契約条件や価格を複数の事業者で比較検討することが重要です。
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自家消費を最大化する:
- 技術: 発電した電力を可能な限り自宅で消費するためのシステムを構築・強化します。主な方法として、蓄電池システムの導入、エコキュートなどの時間シフト可能な機器との連携、スマートHEMSによる制御などがあります。
- 蓄電池システム: 太陽光発電で発電した余剰電力を蓄電池に貯め、発電量の少ない時間帯や夜間に使用する技術です。これにより、夜間の買電量を削減できます。パワーコンディショナ(PCS)が単機能型PCSの場合は蓄電池用PCSの追加やハイブリッドPCSへの交換が必要となる場合があります。最新のハイブリッドPCSは太陽光発電と蓄電池の電力を効率的に制御できます。
- エコキュート・電気温水器: 昼間に発電した電力を使って、エコキュートなどで夜間に使用するお湯を沸かすことで、自家消費率を高めます。HEMSなどを利用して自動的に最適時間に沸き上げを行う設定が有効です。
- HEMS(家庭用エネルギーマネジメントシステム): 住宅全体の電力使用量を「見える化」し、太陽光発電量、蓄電池残量、電力会社からの買電量などをリアルタイムで監視・制御します。これにより、発電予測や電力使用状況に基づき、蓄電池への充電・放電、家電機器の稼働時間を最適にコントロールし、自家消費率を最大限に高めることが可能です。
- 経済性: 買電量を削減することで、電気代の節約効果を大きく得られます。特に、電気料金の単価が高い時間帯の買電を避けることで、削減効果が高まります。蓄電池導入には初期費用がかかりますが、削減できる電気代と組み合わせて費用対効果を評価します。多くの自治体や国が蓄電池導入への補助金制度を提供しており、これを活用することで初期費用負担を軽減できます。自家消費率を10%向上させることで年間〇〇円程度の電気代削減が見込める、といった具体的なシミュレーションが、導入判断の材料となります。
- 技術: 発電した電力を可能な限り自宅で消費するためのシステムを構築・強化します。主な方法として、蓄電池システムの導入、エコキュートなどの時間シフト可能な機器との連携、スマートHEMSによる制御などがあります。
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オフグリッド/グリッド併用システムへ移行する:
- 技術: 電力会社の送配電網に依存しない、あるいは限定的に依存するシステムです。
- 完全オフグリッド: 電力会社からの電力供給を断ち、太陽光発電と蓄電池、必要に応じて非常用発電機などで全ての電力を賄います。技術的な難易度が高く、システムの容量設計や天候による発電量の変動への対応が重要です。
- グリッド併用(特定負荷対応・自立運転機能強化): 通常時は電力会社からの買電も行いますが、停電時には電力会社からの供給が停止しても、太陽光発電や蓄電池からの電力で特定の負荷(冷蔵庫、照明など)に電力を供給できる機能を強化します。ハイブリッドPCSや特定の配線工事が必要となります。
- 経済性: 完全オフグリッドは高い初期投資と維持管理が必要です。経済性よりも、電力系統に依存しないことによる自立性や、災害時のBCP(事業継続計画)対策としての価値が大きい選択肢と言えます。グリッド併用型の強化は、停電時の安心感という非経済的な価値に加え、売電よりも自家消費を優先することで普段の電気代削減にも寄与します。
- 技術: 電力会社の送配電網に依存しない、あるいは限定的に依存するシステムです。
最適な活用方法を見つけるための検討ポイント
卒FIT後の最適な太陽光発電システム活用方法を選択するためには、いくつかの要素を総合的に検討する必要があります。
- 現在の電力消費パターン: 日中の電気使用量が多いか、夜間が多いか。ピーク時間帯はいつか。HEMSなどで取得できる詳細な消費データは、自家消費のポテンシャルを測る上で非常に有用です。
- 設置済み太陽光発電システムの仕様と状態: パネルの総容量、設置方位や角度、パワーコンディショナの種類(単機能かハイブリッドか)、設置からの経過年数や劣化度合いを確認します。PCSが自家消費最適化に対応しているか、または蓄電池連携に適しているかも重要なポイントです。
- 将来的なライフスタイルの変化: 電気自動車(EV)の導入予定があるか、オール電化への移行を検討しているか、家族構成の変化など、将来の電力使用量に影響を与える可能性のある要素を考慮に入れます。EVはV2H(Vehicle to Home)システムと組み合わせることで、大容量の蓄電池として活用する選択肢も生まれます。
- 初期投資予算と回収期間: 新たに蓄電池などを導入する場合、初期投資額とそれによって削減できる電気代や得られるメリット(災害時の安心感など)を比較検討します。補助金制度の情報を収集し、活用可能性を検討することも重要です。
- メンテナンスと保証: 新たに機器を導入する場合、その機器の保証内容や寿命、将来的なメンテナンス費用も考慮に入れる必要があります。
結論
太陽光発電システムのFIT制度終了は、売電収入が減少するという変化をもたらしますが、同時に自家消費を最大化することで電気代削減のポテンシャルを最大限に引き出す機会でもあります。卒FIT後も、システムの技術的な仕組みを理解し、ご自身の電力消費パターンやライフスタイル、将来計画に合わせて最適な技術的選択肢(蓄電池連携、HEMS制御、エコキュート連携など)を検討し、実行することで、経済的なメリットと環境貢献を両立させることが可能です。
システムの改修や機器の追加導入を検討される際には、複数の専門業者から情報収集を行い、見積もりや提案内容(システムの構成、費用対効果、保証、メンテナンス体制など)を慎重に比較検討することをお勧めいたします。信頼できるパートナーを見つけ、卒FIT後の太陽光発電システムを賢く活用し、持続可能なエネルギーライフを実現してください。